ニートにハーブティーは要らない

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芥川龍之介は乙女ゲームのシナリオライターになるべき

芥川龍之介の恋文

 

 

「芥川龍之介」の画像検索結果

 

ボクはすべて幸福な時に、一番不幸な事を考えます

さうして万一不幸になった時の心の訓練をやって見ます

その一つは文ちゃんがボクの所へ来なくなる事ですよ。

(中略)

……そうっと瞼を撫でてあげます

『世紀のラブレター』より

 

これは芥川龍之介が25歳のころ、当時17歳の婚約者・文にあてて書いた恋文。普段は緊張感のある文体の芥川が、これほどロマンティストだったとは。

 

世紀のラブレター (新潮新書)

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「そうっと瞼を撫でてあげます」なんて言われたら、ときめきすぎて人生狂いそう。だってまぶただから。何かの恋愛マニュアルで覚えた男が、ドヤ顔で頭なでなでするのとは格が違うから。もう恋愛偏差値が違いすぎてるから。

 

「そうっと瞼を撫でてあげます」という、ギラついた欲望の影が一切見当たらない、優しくロマンティックな表現。これには全女人が腰砕けになるんじゃないかと割と本気で思う。はっきり言って、これは発明。芥川さん、恋愛コピーライティング能力が半端ないって。

 

マジでそのスキルを乙女ゲームシナリオライターに生かすべきだと強く思う。

 

 

「ダーメ、俺から離れるの禁止。」

 

「必ず手に入れる、
天下もお前も。 」

 

「おいで、ボクだけのシンデレラ。 」

 

「この俺様に逆らうなんて…お前みたいな女ははじめてだ」

 

「……そうっと瞼を撫でてあげます。」

 

ほら、その前まで何かほざいてたメンズたちが消し飛んだでしょ。もうこれは常人には思いつかないセンスのセリフなんですよ。

もし乙女ゲームシナリオライターになった暁には、天下取れると思う。もう本職文学じゃなくなっちゃうと思う。

 

ちょっとまだまだ芥川さんの素晴らしき恋愛コピーを紹介したりない。

 

(前略)こんどお母さんがお出での時ぜひ一しよにいらつしやい。その時ゆつくり話しませう。二人きりでいつまでもいつまでも話していたい気がします。さうしてkissしてもいいでせう。いやならばよします。この頃ボクは文ちやんがお菓子なら頭から食べてしまいたい位可愛い気がします。嘘ぢやありません(後略)

『文豪たちの手紙の奥義―ラブレターから借金依頼まで

 

 もうここにも天才的フレーズが散らかりまくってますね。

 

まず、「さうしてkissしてもいいでせう。」

あえての「kiss」に心奪われる。滑稽なほどハイカラぶった表現をすることによって、照れをごまかしている男のかわいらしさよ。その前に「いつまでも話していたい」と言って本気度を伝えてからなので、いやらしさゼロ。是非ともそのノウハウを乙女ゲーム界隈に伝授してください。

 

そしてそこからの「いやならばよします。」

いやならばよすんかい~~

この必死感のなさが芥川さんの魅力。ちょっと拗ねているようなニュアンスも伝わってきて、これもまたかわいい表現。彼女にいかに「かわいい」と思ってもらえるかは恋愛を長続きさせるコツだと思う。いかに母性をくすぐれるかというか。その点において芥川さんは秀逸。文章全体に甘えのムードが漂っていながらも、決してキモくない。

 

極め付けは「文ちゃんがお菓子なら頭から食べてしまいたい位可愛い気がします。嘘ぢやありません。」

「食べちゃいたい」系は乙女ゲームでもよく見られるタイプのセリフかとは思いますが、これはちょっと格が違います。「お菓子なら」と入っているのがポイント。恋人を甘くてかわいいお菓子に例えるという、女性心理にクリティカルヒットするこのフレーズ。やはり芥川さん、とんでもないすけこましです。そして「嘘ぢゃありません。」と言うのも、手紙を読んでいる恋人をちゃんと想像しながら書いていないと出てこない表現。これを読んだ文さんは、こうして手紙を読みながら照れている自分をどこかから芥川さんが見守っているような気持ちになったでしょう。

 

最後に有名な恋文を

 

僕のやってゐる商売は 今の日本で 一番金にならない商売です。
その上 僕自身も 碌に金はありません。
ですから 生活の程度から云へば 何時までたっても知れたものです。
それから 僕は からだも あたまもあまり上等に出来上がってゐません。
(あたまの方は それでも まだ少しは自信があります。)
うちには 父、母、叔母と、としよりが三人ゐます。それでよければ来て下さい。
僕には 文ちゃん自身の口から かざり気のない返事を聞きたいと思ってゐます。
繰返して書きますが、理由は一つしかありません。
僕は文ちゃんが好きです。それでよければ来て下さい。

 

そう、大事なことは飾り気のない言葉で聞きたいもの。

「僕は文ちゃんが好きです。」それで充分。

ここで変な御託を並べないあたりも、完璧なセンス。

 

めちゃくちゃ貧乏でもクリエイティブな人がある程度モテ続けるのは、この芥川さんみたいに瞬間的にロマンティックな事を言うセンスがあるからではないだろうか。どんなに無責任でも、貧乏でも、頼りにならなくても、たまに最高の恋愛コピーを発する男、危険である。

 

事実、芥川さんはこれだけ愛した文ちゃんを残して自殺を遂げる。

 

では、芥川さんの名言で締めくくりましょう。

 

恋愛はただ性欲の詩的表現をうけたものである。

『侏儒(しゅじゅ)の言葉』