ニートにハーブティーは要らない

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よく深夜に更新します

かべがないアパートがあったなら

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明日このアパートを出ていく。

不便な3年間だった。でもいとおしい暮らしだった。

 

最寄りのバス停への横浜駅からの終バスは23:00

それを過ぎると、最寄りの鉄道の駅から急な坂道を登って帰らなくてはいけない。

 

近くにはスーパーがなく、なぜかファミリーマートだけ2軒もある。ファミマの50メートル先にまたファミマがあるのだ。最近になって薬局のクリエイトができて、周辺住民が歓喜の声を上げた。それくらい何もないところだ。

 

しかし本当に考えものだったのは、立地ではなくアパート自体の方だった。とんでもなく壁が薄かった。隣の住民が米津玄師を歌う声も、おならも丸聞こえだった。田舎での一軒家暮らしに慣れていたので、木造アパートの壁の薄さをなめきっていた。

 

引っ越して数か月した頃、隣にドルオタが越してきた。眼鏡をかけた、清潔感のあるカッパのような男性で、好印象を抱いた。しかも図書カードをもって挨拶に来て、ずいぶんいい感じの人が越してきたなと思っていたが甘かった。夜中の三時までアイドルのビデオをみて「ウ~~ウォイ!!!ウ~~~ウォイ!!!」と気合の入った合いの手を入れていた。家で一人で合いの手を入れるものなんだと、おののいた。わたしのベッドが面している側におそらくテレビを置いていて、アイドルの声も、ドルオタの声も薄い壁を通してダイレクトに響いてきた。

 

もうわたしは不満マックスで、2、3回控えめに壁ドンしたが向こうはエキサイトしていて気が付かないようだった。しかたないので寝返りを繰り返して朝を迎えていた。

 

これをよく周囲に愚痴った。

 

わたしの友人に、発想がナチュラルにとち狂っている人がいる。おっぱいがでかいので乳牛と呼ぼう。

 

乳牛に「いや、隣のドルオタのミッドナイトウ~~ウォイが半端じゃなくて寝られない」と言うと

 

「でもさ、壁があるアパートでよかったよ、お前、ちょっとは感謝しろよ!!!」となぜか勢いよく言われ、「ええ~~意味わかんない怖い」と思った。

 

「もしさ、壁がなかったらそのドルオタが寝てる○○(わたし)に向かってウ~~ウォイしてる事になるんだよ。それやばくない?横たわりながら応援される○○やばくない?」

 

いや、横たわっていることを全力で応援される人間はやばいけど、それを思いつく乳牛はもっとヤバイ。というかアパートに壁がなくて、寝てるわたしがドルオタに対してむき出しになってたらそもそもウ~~ウォイしないだろう。ていうか、壁がなかったとしてそれでもドルオタがウ~~ウォイしてたら、それはあくまでもテレビにやってるんであってわたしにやってるんじゃないじゃん。もう世界観が狂いすぎていて、書きながらわけわかんなくなってきた。

 

「まあ、とにかく壁という存在がある世界でよかったじゃん。寝てるとこに直接ウ~~ウォイで応援されなくて済んでんだから。壁がない世界だったらどえらいことだよ。」と今度は神妙に言われ、思わずこちらにも狂気が伝染しそうだった。

 

「かべがない世界」とか書いたらちょっとしたaikoの新曲みたいだけど、やっぱりとち狂ってるよ、乳牛。アラサーバンドマンの彼氏とはまだ付き合っているのかい?

 

ところで、交通の便も悪い、まともなスーパーもない、広さもないこの住まいだけど、とりあえず壁はあるのである。乳牛の言うことを聞いて、有難がって3年暮らした。ドルオタは数か月前に出て行った。すこしさみしかった。

 

今は隣の体育会系の男子(演歌歌手・大江裕に激似)が、彼女を連日のように連れ込んでいる。真っ黒に焼けて、白い歯がまぶしかったその彼女は、予想に反して可憐な声で鳴く。最近ではその声を、「ああ壁のある世界でよかった」と思いながら聞いていた。

 

この暮らしも今日で終わる。