ニートにハーブティーは要らない

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よく深夜に更新します

教授の「父としての顔」を見てしまった

 

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恐れていたことが起こった。

今日、同じ最寄り駅を使っている担当教諭とスーパーでエンカウントしてしまったのだ。そもそもこれまで遭遇しなかったのが運が良かったのか。

 

もともとは、わたしが教授の住む街に引っ越してきてしまったのだ。せっかく家族水入らずで平和に過ごしていたのに、近所をゼミ生がうろうろするようになるなんて教授もかわいそうだ。でも仕方ない。交通の便がよく、家賃が安く、まずまず広く、トイレとシャワーが別々になっている部屋をさがしているうちにその街に住むことになったのだ。教授だけの街じゃないんだ。許せ。

 

教授に「○○に引越すんですよ~」と言ったときは、「出ていけ」と言われた。「もう不動産会社にもお金払ったんです。」と言うと、「金戻してもらって、出ていけ」と言われた。ひどい話である。そんなにわたしが嫌いか。しかもそのとき向田邦子の「かわうそ」について話をしていたので、「僕が住んでいる街で獺祭をやられては困るからね。」とも言われた。人をなんだと思っているのだろうか。

 

教授は50歳くらいなんだけど、そうは見えない。髪がふさふさで黒くて、スタイルもよく、顔も整っている。女生徒からもちやほやされ、同僚のおじさまたちからも「先生はイケメンだから…ほほほ」と持ち上げられている。そして自分でもその立ち位置を自覚していると思えて、プライベートをむやみに明かさないというセルフジャニーズ事務所みたいなことをやっている。単に公私をきっちりわけたい人なのかもしれないけど。そしていつも上下ネイビーのプレーンな服を着て、セルフブランディングも図っている。

 

そんな教授なので、どうやら所帯じみた姿を生徒に見られたくないようだ。奥さんと赤ちゃんがいるはずだけど、その話をしているのを聞いたことがない。他の妻子持ちの教授は授業中にもさりげなく嫁さんや子供の話をはさもうとする。「授業の話をしろ!」と思いつつも、ちょっとほほえましい。よそでのろけられるのって、女にとってはまんざらでもないことだ。奥さんも幸せだろうと思う。でも教授は一切そんな話をしない。いつもロラン・バルトドゥルーズの話をしている。すこしくだけた場面で、「先生、娘さんですか息子さんですか?」と誰かが聞いてもはぐらかす。

 

でもまあ、「公私をわけたい」、「プライベートを明かしたくない」というのは教授の一方的な都合である。わたしには関係がない。この街に住みたいから住む。それだけである。すでにこの街はわたしの庭だ。教授に会っても胸を張って挨拶してやるぞ、と意気込みながらいつも近所を歩いていた。とはいえ、駅前で教授に似た人を見かけるたびに「ゲッ」と思い、心臓が嫌な動きをした。細身で浅黒くてメガネのひとが駅前にいると、全部教授かと思ってしまう。「卒論の進捗を聞かれたら…」という嫌な妄想がはかどる。そういうときは「やっぱり住むんじゃなかった…」と思ったりしていた。

 

しかし最近は、駅前の「教授っぽいひとたち」にも慣れ、すっかり油断して歩くようになっていった。そんな矢先、スーパーの入り口でのことである。

 

10メートル先に教授がいた。奥さんとおぼしき女性のうしろを歩いていた。抱っこひもで、体の前側に赤ちゃんをくくり付けていた。赤ちゃんは顔を胸にうずめるようにしていて、よく見えない。教授はいつものネイビーのセットアップじゃなくて、Tシャツに短パンにキャップをかぶっていた。50過ぎなのに、若いパパみたいだった。

 

教授と目があった。

 

教授はハッとした表情をしたあと、少し恥ずかしそうに手でシッシッとやった。

 

わたしは立ち尽くして、ニヤニヤしていた。時は夕暮れ、わたしの影は伸びていた。教授は奥さんに続いてスーパーの中に消えていった。

 

これまで教授のイケメン扱いに疑念を呈してきたわたしだけど、あの父親姿には萌えてしまった。「妻子といるところをたまたま目撃して立ち尽くす」というシチュエーションもたまらない。

 

「わたし見ちゃったの・・・。あなた、そんな顔するのね・・・。見たことないくらい、幸せそうだった・・・。」

 

スーパーで買い物するのはやめて、踵を返した。

竹内まりやでも流してほしいくらいだった。

 

 

 

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