ニートにハーブティーは要らない

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よく深夜に更新します

クリエイトSDに魂を売った夜

 前に住んでいた町には、クリエイトSDという薬局くらいしか便利な店がなかった。

 

marple-hana1026.hatenablog.com

 

 クリエイトSDというのは神奈川県で幅をきかせている大型ドラッグストアで、日用品から医薬品から食料品までなんでも揃う、トモズとかウェルシア薬局みたいなものである。あの頃のわたしにとって、クリエイトSDはまさに砂漠のオアシスだった。オープンセールのときに配ってくれた栄養ドリンクの味も、ほかではあまり売っていないカトキチほうとうの味も忘れることはない。今では便利タウンにすっかり染まり切ってしまったけど、クリエイトSDが一つ近所にあればとりあえず生活できるのだということをわたしは身をもって知っている。

 

 あの頃のわたしはすっかりクリエイトSDにほだされていて、やれクリポンだのレシートについてくるオマケポイントだのを一生懸命ためていた。400ポイントがたまると現金扱いで消化できるんだけど、そのときの気分は最高だった。「この日を信じてやってきた…」そういうさわやかな気持ちになったのは初めてのことだった。

 

 そもそもドラッグストアというのは、なんだか妙に心落ち着く空間である。洗剤や入浴剤や基礎化粧品がズラリと陳列されているのを見ると、「清潔」という言葉が浮かんで気持ちが良い。プチプライスの化粧品を眺めて、あれもこれもと目移りして結局買わないという不毛な時間を過ごすのも楽しい。お菓子が普通のスーパーより少しだけ安いのを発見すると、ものすごく得をしたような気持ちになる。

 

 クリエイトSDはそういった「ドラッグストアの愉しみ」を満たしに満たしていた。赤いパッケージのチルドのシュウマイが常に80円くらいだというポイントが、とくにわたしの心をくすぐっていた。しかも冷凍食品がつねに半額。プチプラ化粧品の定期的なセールにも余念がない。しかも主にクリエイトSDでしか売っていない「ハートチップル」というにんにく味のお菓子もうまい!クリエイトSD万歳!!

 

 ということで行くたびに長時間店内を徘徊していた。

 

 ある日わたしは彼氏と「アイスでも買いに行くべ」ということでやはりクリエイトSDに来ていた。中井貴一のように贅沢な間の取り方をして話す彼氏と、スローな会話をしながら店内を徘徊。すると妙な感覚がした。彼氏があまりしゃべらないせいだろうか、いつもは気にしていなかった店内BGMが耳を頭を支配して離れない。

 

 


Create SD テーマソング

 

♪ クリーエイト、エ・ス・ディー!(チャッチャ)

♪ クリーエイト、エ・ス・ディー!(チャッチャ)

 

 このメロディーが、歌詞が、わたしを支配してくる。体の底から何かが湧きあがってくる。率直に言って、「踊りたいな」と思った。

 

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ヒッポちゃんとクリエイトテーマソング | ドラッグストア クリエイト エス・ディー

 というかこのクリエイトSDのキャラクターのカバ、ヒッポくんというそうなんだけど、この方が歌っているのだろうか。よくわからないが、とにかくこの曲にやられた。思えばこのときからわたしはヒッポくんに身も心も支配されていた。それまでしこしことポイントをため、ヒッポくんの機嫌をうかがってきたのもこの前ぶれだったのかもしれない。

 

 彼氏と暗い夜道をアイスクリームやプリンを入れたガサガサした袋を振り回して歩く。もう店を出たというのに、あの曲が頭の中で流れていて止まらない。「クリーエイト、エ・ス・ディー♪」 ヒッポくんは脳内に直接語りかけ、わたしの思考を制限し、その代わりにあの曲で満たしていく。「クリーエイト、エ・ス・ディー♪」それ以外考えられないようにしてくる。わたしはもう辛抱たまらなくて歌った。

 

♪ クリーエイト、エ・ス・ディー!(チャッチャ)

♪ クリーエイト、エ・ス・ディー!(チャッチャ)

 

 乾いた夜の空気に響く、歌唱。

 

 しかし彼氏はわたしがすでにヒッポくん支配下にあり、かつてのわたしとは全く異質な存在になっていることなどまるで気が付いていないようで、「その曲気に入ったの?」と優しく微笑みかける。ごめんなさい、恋人よ。愛している、愛していた。しかい今のわたしは内面的に変質を遂げて、もうすでにかつてのわたしではない。HIPPO様に肉の芽を埋め込まれ、身も心もクリエイトSDの繁栄と共にあろうとしている。もうかつてのわたしではない。でもまだ間に合うかもしれない。この頭の中の音楽が鳴りやめば…。

 

 家につき、彼氏はさっそくお菓子を広げる。その背中を見る余裕もなく、わたしの頭の中の音楽が大きくなっていく。HIPPOに植え付けらた肉の芽は深く深く根付き。支配を強固にしていく。どこかからHIPPO様の声がする。

 

 (歌え……踊れ……歌え……!踊れ……!)

 

 もう考えることなどままならず、わたしは彼氏のまえに躍り出ていた。

 

♪ クリーエイト、エ・ス・ディー!(チャッチャ)

♪ クリーエイト、エ・ス・ディー!(チャッチャ)

 

 わけのわからない歌を劇団四季ぐらいの熱量で歌いつつ、サザエさんオープニングにおけるタマのごとき腰振りをしながらズイズイとにじり寄ってくる、恋人のような女を見て彼は何を思っただろうか。世の中には驚くほど些細なことで交際相手に愛想をつかす人がたくさんいる。

彼氏の頼んだ海老天丼の衣が巨大に膨らんでいて、完璧だった彼氏への愛情が冷めた - 鬼嫁ちゃんねる

 

 これは彼氏の頼んだエビ天丼がなんかダサくて気持ち悪かったがために恋心が冷めたという2ちゃんの書き込みである。こんなことで冷める人がいるくらいなのだから、「彼女がクリエイトSDあるいはそのカバに心酔し、訳の分からん歌を歌いながら、素人がらみの気持ち悪いダンスでにじり寄ってくる」というシチュエーションは十分に冷めるに値する。それでももう誰もわたしを止められない。

 

 その後のことはまるで悪い夢にうなされていたようで、あまり覚えていない。HIPPOによる支配も、本当にあったのかどうかすらよくわからない。

 

 今はあの悪い夢のような夜の記憶から逃れるようにして、クリエイトSDのないところに引っ越した。

 

 しかしつい最近、スルリと口をついて「クリーエイト、エ・ス・ディー♪」と歌ってしまい、まだ支配が断ち切られていないことを知る。肉の芽は深く深く根付いている。

 

 

 

信じるか信じないかは皆さん次第ですが。