ニートにハーブティーは要らない

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ある夜、TはUFOを見たことがあると言った

 

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https://mnsatlas.com/?p=10713

T*1と一緒にわたしの家まで続く坂道を歩いていたときのこと。夜空にみどりがかった光の玉が動いていて、それはどう見てもUFOではなかったんだけど、親しい人間と過ごしているときは許される範囲でいい加減なことを言ってみたくなるもので、「UFOがいるね」と話しかけてみた。わたしの頭のはるか上にTの顔があって、その表情は読み取れないのだけど、無口な彼が何かを頑張ってしゃべろうとするときの「スゥ」と息を吸い込む音が聞こえた。

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………違うね。」

 

わたしは彼が「スゥ」という音をたてて、「………」の沈黙を提供するあいだ、いつもどんな素敵な言葉を聞くことができるか期待に胸をふくらませて待つのだけど、たいてい拍子抜けするようなことしか言わない。でも、彼が何か村上春樹作品のピロートークのような小洒落た冗談でも言うようになったら、春の熊くらい好きだよなんて言うようになったら、それこそ本当にUFOが突如として東京のど真ん中にミステリーサークルをこしらえ、人類の終わりを宣言しそう。実はTは他の星からの刺客で、地球に襲来したビロンとした宇宙人たちの中央に立ち、あの無駄に長い脚をバタバタさせながら勝利の舞を踊りだすかもしれない。そしたらわたしは「どんなフラッシュモブ??」って言いながら頭ぶち抜いて死んでやろう。そうしよう。

 

と、こんなことを考えるでもなく考え、つまらぬ冗談を言ってTからの物足りない答えに拍子抜けしている自分に少しあきれていると、Tの口から思いがけない言葉が飛び出した。

 

「見たことあるんだ。車のなかから。」

 

「うそだ。」

 

疑うわたしに、Tは確かに見たというUFOの特徴を静かに静かに教えてくれた。そのオレンジがかった光は何の軌跡も描かずに、突如として夜空に現れ、ヒャンッヒャンッと不規則に高速で移動し、やはり軌跡を描かずに突然消えたらしい。彼はその光を見たことがあるからこそ、わたしの安易なUFO宣言に「否」と言ったのだった。

 

「それいつのこと。」

 

「小学校高学年くらいかな。」

 

前に聞いた話だと、Tはその小学校高学年あたりから著しく無口になったらしい。そして身長もめきめきと伸びた*2

 

「そのとき、UFOに連れ去られて改造されたんじゃない?」

 

そう言ってTの答えを仰いでも、何も言わない。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」

 

繋いだ手はいつも冷たい。

 

この人は実は本当に宇宙人なのかもしれない、と思いながらわたしも押し黙って坂をのぼった。でも他人なんてみんな宇宙人みたいなものか、とも思いながら。

 

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*1:わたしの恋人。こう呼ぶことにしました。

*2:186センチ