ニートにハーブティーは要らない

ニートにハーブティーは要らない

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今ごろ自分の家が燃えているんじゃないかと思う

 夜、自宅までの坂道を登っていると、背後からサイレンの音が追いかけてきてどんどん大きくなったかと思えば、3台ほどの消防車が立て続けにわたしを追い越した。音はゆがみながら遠ざかり、そのままわたしの家と同じ方向に消えていった。


「わたしの家燃えてんじゃないかな」


 鼻先にじりじりと燃え残った焦げのような匂いがする気がするけど、それが火事のせいなのか夏の始まりのせいなのかはわからない。朝、めずらしくヘアアイロンを使った。時間もなかったのになぜか炒め物も作った。濡れた手でコードを触った。隣の部屋の老人がタバコを吸ってるのを見た。アパートの周囲は植え込みに囲まれている。すぐにあの築40年の木造アパートは炎に包まれるだろう。家を出る前に見た全てのことが伏線のように思われ、疑惑は確信に変わる。


「燃えてんなこれ」


 こういうときにわたしは、ちびまる子ちゃんの永沢君を思い出す。たまねぎ頭に特製サイズの帽子をのせ、他の子供たちの無邪気な放言に陰鬱でひねくれた横槍を入れる彼は、重く悲しい過去を背負っている。

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 彼は火事で家を失った。家族と過ごした大切な家、思い出の品が燃えているのに、瞳に炎を映して立ち尽くすしかなかった永沢君。彼は他の子供たちよりずっと早くずっと深く、世の儚さを知ることになる。

 残酷なのは、クラスメートだ。独善的な学級委員長の丸尾がいきり立ち、「永沢君をはげます会」を強引に開催する。はまじなんて「新聞に載ってよかったじゃん」など、(ギャン!)と効果音がつきそうなほどむごい言葉を浴びせる。皆が引きつった笑顔で永沢くんに順番に励ましの声をかけおわったあと、わたしの中ではちびまる子ちゃんで嫌いなキャラトップ8には入る丸尾が再び無神経なことを言う。

丸尾「どうですか永沢君、少しは元気になりましたか!?」

 もう何も言うなよ。一生そうやって、他人の気持ちを想像できないまま生きていくんだろうな、おまえは。ある意味楽だよな、そういうのって。ちっともうらやましくないけどさ。何が「はげます会」だよ。おまえに永沢の何がわかるんだよ。

 瞳に怒りの炎を宿しながら、結局全然燃えてなかった自宅アパートのドアノブに手をかける。サイレンの音はもう随分遠くで鳴っている。

「みんなはいいよな……火事にならなかったんだから……」

 永沢君の声が背後から聞こえる気がする。