ニートにハーブティーは要らない

ニートにハーブティーは要らない

思ったことを書いています

シャンパンから雑煮まで 

12月28日の夜20時頃 

 在宅で納まった。とくに納まったという感じはしなかったが、何となくビールを飲むことで納まった感じになった。 

 東北新幹線のチケットは一週間前に払い戻し、帰省はやめると親に電話してある。なんやかんやこれまで毎回帰省を楽しんでいたので、初めて過ごす東京での年越しだ。去年の今頃に行動を共にしたおじさんが、「地方の人間は勝手に東京を回してる」「俺はそれを遠くから“まわしてんなー”と思って見てる」といったようなことをくたくたとしゃべっていた。その人はもちろん東京出身で、下町的なものが好きなカメラマンだった。(なるほどそう思うもんなのか)と途中まで興味深く聞いていたが、だんだん(それをわたしの前で言う意味とは…)と考え始めた途端にもやもやしてきた。頭の中でその人の上にTOKYO PRIDEというポップな字を浮かべることで溜飲を下げた。 

 彼のような人は正月が好きなんではないだろうか。子供のころになんらかのきっかけで読んだ林真理子のやらしい小説に、「帰省なんかするなよ、東京の正月はいいぞ。(田舎者はみんな帰っちゃって)どこもかしこも空いてて遊び放題だ」みたいなセリフがあったような気がする。しかし今年の正月は今までのどんな正月とも様子が違うだろう。新幹線のネット予約を見てもガラガラで、例年すし詰めのやまびこ自由席で3時間かけて帰っていたのが嘘みたいに思える。友だちもあまり帰省していないようだ。なのに街はどこもかしこも空いている、異例の正月になるだろう。遊び放題というわけにもいかないし。 

 

12月29日~30日 

 母と祖母から相次いで荷物が届いた。ロングスリーパーなのでだいたい午前10時ごろまでは寝ていて、宅配の人のチャイムで起きることが結構多い。母と祖母は必ず午前指定で荷物を送ってくる。祖母はゆうパックを使うのだが、ゆうパックの人はたまに朝の8時台に来る。バネじかけのように飛び起きて、パジャマの上にブルゾンを着て受け取りに出る。ヤマトもゆうパックもいつもだいたい同じ人だ。この人たちは朝の何時に起きるのだろうか。寝起きなのがやましくて、目を合わせてありがとうと言えない。 

 母からの荷物には、サトウの切り餅、山形のとびきりそば、ほろほろしたクッキー、ちーたら、レトルトカレー(これは正月らしい食事に飽きたときにものすごくおいしく感じるやつ)、スパークリング日本酒、わたしの好物のピーナッツバター、ひまわりの種が入っていた。その場で開封して、何かに取り憑かれたようにひまわりの種をむさぼった。スマホで[ひまわりの種 栄養]と調べると、良質のたんぱく質マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄分、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB6、リノール酸亜鉛などいろいろな栄養が含まれているらしい。 

 祖母からの荷物にはりんごが20個と野菜、歯ブラシが1ダース、そうめん、手作りのし餅が入っていた。りんごがあまりに多かったため、彼氏に半分くらい分けた。そのお返しに、彼氏の親からやはり送られてきたという、地元の名産品をもらった。なにやら有楽町交通会館のような雰囲気が出てきた。彼氏はもう社会人のくせにお年玉をもらったらしい。うらやましいぞコラー!!!!! 

 食べ物類を整理して母と祖母にお礼の電話をした後は、たまっていたやるべきリストを片付けた。ふるさと納税をし、ガスコンロの上の換気扇を掃除し、家じゅうをピカピカにした。お風呂場はマジックリンで掃除したあと、ドアを閉め切って換気扇を止めて、甘い香りの煙を炊いた。これをやると2カ月カビが生えない。断捨離もしようと思ったが、もともと物が少なくて捨てるものがなく、儚い貝ひものようになった下着だけをビニールにくるんで捨てた。 

 それらの作業をする間は、モーニング娘。の2012年~2015年頃のシングル曲を聴いていた。(この時期に合うなー)と思いながら聴いていた。自責の念を促してくる感じが、年末に効くのかもしれない。聴きながら抱負が生まれやすい。最近youtubeを見ていても、twittterを見ていても、「頑張らなくても、ありのままでいいんだよ」「おいしくご飯ができただけでも、自分をほめてあげましょう」みたいなメッセージに、「なんか安心しました、涙が出ました」などと感想が飛び交うのがやたらと目に付くんだけど、肯定ばかり求めるのは危険だなと思う。自責と他責をベイブレードのごとくぶつけ合っていきましょう。 

 

12月31日 

 大晦日。夕方の6時にはもうお風呂を済ませた。最近クナイプのウィンターグリーン&ワコルダーのバスソルトを使っているが、匂いがものすごい。むかし頭をけがしたときに担ぎ込まれた整形外科の匂いがする。でも抜群に肩こりにいい気がする。湯上りにおなかが冷えないようにズボンに上を入れ、髪を乾かした。髪を最近短く切ったので乾くのが早い。 

 お笑いの番組にチャンネルを合わせ、冷やしておいた白ワインを開けた。今年買ってよかったものの一つに、ワイン用のキャップがある。黒いキャップをかぶせて何度かポンプを押すと瓶の中が真空状態になり、翌日も飲みさしを楽しめる。だからこうして白ワインを半分だけ飲んで、ほどよいところでスパークリング日本酒に移行できるのである。生ハムとマグロのカルパッチョを食べた。 

 ほろ酔いでテレビを眺めたが、いつまでも内容が入ってこなかった。子供のころ、「テレビという箱を見ている状態」から「テレビの中で起こっていることを見ている状態」に切り替わる瞬間が不思議でしょうがなかった。当時はテレビは分厚くて本当に「箱」という感じで、上に飼い猫が乗っかって画面上に尻尾を垂らしたりしていたのだ。今日はいつまでたってもテレビという箱を見ている状態から抜け出せず、ただ音を聞いていた。 

 21時頃、年越しそばを食べた。母から送られてきたとびきりそばというのは乾麺だったが、山芋が入っていてしっかりした麺だった。ゆでてあたたかいつゆをかけ、ちりちりに焼いたえび天と、セリとなるとを乗せて食べた。 

 深夜、おもしろ荘が始まったのを少しだけ見て、歯を磨いた。窓を開けて雨戸を下ろし、自分を小さく折りたたんで眠った。 

 

1月1日 

 起きると真っ暗だった。午前6時半。早く起きたときのあらゆる感覚は、怒りに収束する。むかつきながら飛び起き、雨戸を開けても外はやはりまだ暗い。むかつきまかせに真っ赤なニットに着替え、コートを羽織り家を飛び出した。空にはまだ薄い月が浮いていた。左に神社を見送る。オレンジ色の灯篭が連なって、化かされそうな雰囲気が出ている。歩いているうちに明るくなっていた。初日の出が近い。少しいったところに好きな道がある。うっそうとした雑木林の中に細い坂道が通っていて、そこを登ると急に視界が開けてからっぽの高台が現れる。その道を登るたびに、ハイラル平原に出たときのような爽快感がある。そこに行けば初日の出がきれいに見えるかもしれない。 

 いつものように暗い木立の中を登り、高台にたどり着くと、何人かそこで日の出を待っていた。互いに距離を保ち、顔をそらしあい、バンドのジャケ写のようなバランスで配置されていた。わたしもそこに加わった。しばらく待っていると、背後に少しずつ人が増えてきた。近所の人には有名なスポットなのかもしれない。なかなか日の出は訪れず、各々震えながら待った。ときどき群衆の中からおじさんの声で「…来たか?」「おっ…あ、まだか」と聞こえ、翻弄された。すでに空は明るいオレンジ色である。「あの辺りはねえ、山だからちょっと出てくるのが遅いんですよ」と解説する声が聞こえ、その数分後にようやく太陽が現れた。びっくりするくらいまぶしく、光の帯が四方八方に放たれた。周囲から一斉に嘆息が漏れ、バズーカのようなカメラを持ったおじさんはシャッターを連射した。本当に、地域の中小企業がCMに使うような素晴らしい日の出だった。背後を振り返ると、老いも若きも男も女も、みなそれぞれに年明け色に照らされて笑っていた。 

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 アパートに戻ると、隣に住んでるお兄さんの部屋のドアにお飾りがついていた。まめな人だ。部屋に戻り、彼氏からもらったいちご煮の缶を鍋に開け、餅を煮込む。ウニやアワビの浮いた塩気のある汁の中に、ゆでた餅。それが彼の実家の雑煮らしい。簡単だし、豪華な感じがしていい。缶を片付けようとすると、年末からため込んだたくさんのビールの缶ごみのなかに、シャンパンの瓶を見つけた。クリスマスに飲んだテタンジェというものだ。ノーベル賞の晩餐会で供されるらしいと言って買ってきてくれたのを、これがシャンパンかと感心しながら飲んだ。年末年始なのでごみの回収がなく、たまったそれらの缶や瓶の様子に、ここ数日のすべてが詰まっているような気がした。写真を撮ろうかなと思ったけど、後から見返したときに(なぜごみを…?)と思ってしまいそうなのでやめた。 

 

【登場人物】

 

 

 

【まとめ買い】ルック おふろの防カビくん煙剤 せっけんの香り 4g×3個パック
 

 

 

小川製麺 山形のとびきりそば 450g

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