ニートにハーブティーは要らない

ニートにハーブティーは要らない

思ったことを書いています

やさしげマダムの店・2連 

 やさしい感じのマダムがやっている店に連続して遭遇したので書き残しておこうと思う。 

 

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 ここ最近、チーズのことで気が狂っていた。何かの拍子に「不思議とあまじょっぱい、見た目も味もまるで塩キャラメルのようなノルウェーのチーズです」という記述を見かけてしまったのだ。とかくコーヒーにも、重たい赤ワインにも合うという。食べてみた過ぎて頭がいっぱいになってしまった。足が届く範囲の輸入食品店を見ても軒並み置いておらず、ネットで見ると送料がとても高く、イライラしていたところで、その店の存在を知った。使っている路線の駅から徒歩数分のとこにあるその小さなチーズ店では、まず確実に扱っているようだった。 

 仕事を急いで終わらせて、あまり降りたことがない駅に降りて、チェーン居酒屋とコンビニの波をくぐりぬけて、夜の19時半ぐらい閉店ギリギリに到着した。小さい一軒家のようなお店の中から黄色い灯りが漏れていて、光めがけてく虫みたいに勢いよくドアを開けた。店内ではお会計をしているおじさんと、お店のマダムが会話をしていた。白いL字型のショーケースの中にはいろいろなチーズが入っていて子供のころに行った天然石の博物館を思い出した。キャラメルのチーズもそこにあった。

 

「お目当てがあったんんですね」といつのまにかマダムがそばに立っていたので、 

「これをお願いします」と言ってお会計をしてもらった。 

 

「初めて来たんです」と言うと 

「初めてなのに、一切の迷いもなく、店に入ってこられましたね」とマダムが言うので、チーズが食べたすぎて気が狂って調べまくってきた旨を伝えると 

「チーズお好きなのね。幸せなことですね」と笑った。 

 

 お店を出るときに「良い夜を…」という声を背後に聞いた。 

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 そしてわたしは重たい赤ワインを買うことにした。近所のグーグルマップを見ていると、小さな個人経営の輸入ワイン店を見つけた。店のホームページを見てみると、あまり耳慣れない名前の国からワインを直輸入している珍しい店らしい。 

 在宅勤務の昼休みに鼻息荒く家を出て、そのお店の前に着いてみると、マンションの1階部分に入口があった。入って螺旋階段を上った先には人影はなく、ワインのボトルがずらりと並べられている。ちょうど青春ドラマによくある河原沿いに寝そべっている人ぐらいの角度で、天井を仰ぎ見るように斜めに並べられていた。見慣れないラベルの数々をじーっと見ていると上から、ギシ…ギシ…と音がした。振り返ると、上階から降りてきたマダムが薄暗いところに立っていた。 

 

「初めて来たんですが…」と声をかけると 

「よくぞいらっしゃいました」と笑って、薄暗いところから移動してきてワインの説明をしてくれた。今はコロナの影響で思うように輸入ができず、選択肢が絞られてくるとのことだ。でも店の看板的存在の輸入ワインが少し残っているというので、それを買っていくことにした。輸入しているのは国内でもこの店だけで、遥か遠くの沖縄のレストランにまで卸しているらしい。ラベルにはきれいな鳥が描かれていた。 

 

「開けて次の日にも、また違った味わいが出てきます。もっとも、皆様一日で開けてしまわれますが…」とマダムは言った。 

 

「また感想お聞かせくださいね」とワインを手渡され、螺旋階段を下りた。わたしはあんまり、こういうときによく話せないなと思いながら下りた。 

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 ワインを一緒に開けようと、週末に彼氏を呼んだ。独り占めしてゆっくり飲みたいような気もしたが、これまでの経験上、わたしにとって一人で多めにお酒を飲むことはメンタルによくない。 

 最寄り駅まで迎えに行って、近所を一緒に歩きながらワインのお店の話をしていると、向こうから見たことがある人が歩いてきた。ワイン店のマダムだった。何もない宙を見つめながら微笑みを浮かべて歩いていた。今のがそのワイン屋の人だよと彼氏に言うこともなく、ワイン屋のマダムの話を続けた。