ニートにハーブティーは要らない

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テトリスに狂った男、父

この世でいちばん暇な人が誰だか、皆さんご存じだろうか。それは、今この地球のどこかでテトリスに興じている人である。


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テトリスとは

いわゆる「落ち物パズルゲーム」の元祖。「上から落ちてくる『4個の正方形で構成された7種類の多角形ブロック』(テトリミノ tetrimino)を操作して、埋まった横列のみが消えるのを利用してテニス(tennis)のラリーのようにひたすら消し続けていく」という単純明快なルールと直観的な面白さで世界規模で大ヒットした。

https://dic.nicovideo.jp/t/a/テトリス

 

4個の正方形からできた4種類のブロックを操作して横列を消していく簡単なお仕事。たいていこれをやる人間というのは、何かを先延ばしにしているか、本気で暇かのどちらかである。

 

寝そべって、ポテトチップスサワークリームオニオン味などを食べながらべとつく手でテトリスに興じている人間がいたら、そういう人間こそ「生産性」で槍玉にあげられるべきだろう。

 

かくいうわたしもついこの間、なぜかうっかりテトリスをインストールしすっかり狂ってしまった。空き時間があれば手が勝手にテトリスを開き、色とりどりのブロックを捌きはじめる。上の方にどんどんブロックが詰まってきて、にっちもさっちもいかなくなると悔しい思いがこみ上げて脳に血がたぎるようで、もう一度やってしまう。なにかやるべきことがあったような気がしても、やめられない。なんだかテトリスのことばかり考えてしまう。テトリスに肉の芽を埋め込まれたかのように。(わたしこれ好きですね)

 

しかし、テトリスをぶっ続けで数時間やってしまい外が暗くなっていたとき、やっと「これはマズい」と感じ、断腸の思いでアンインストールしたのがおとといのことである。テトリスに支配されていた頃のわたしが今は遠く感じる。

 

しかしわたしがテトリス郷に支配されてしまったのは、必然ともいえることだった。それはもともと組み込まれていた「血の宿命」であった。

 

そう、わたしの父こそテトリスを愛しテトリスに狂わされたその人であったのだ。

https://marple-hana1026.hatenablog.com/entry/2018/10/05/父という名の野性

 

このブログにもすでに登場している父であるが、ざっくりどんな人物かを説明しておくと、ずば抜けて無口で野性味にあふれ、何を考えてるんだかあまりよくわからない歯のないお父さんである。仕事は専門的な知識が要る情報インフラ系のことをしていて、なかなか出来るみたいだけど、家にいるときは本当に暇そうである。趣味は夏に鮎釣りをするくらい。家族ともそれほど喋らない。最近は猫に猫なで声で話しかけるなどの変化が見られるようになったが、やはり基本的に無口で暇そうにしていることに変わりは無い。

 

その父が家で見いだした生粋の余暇がテトリスであった。


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まだ携帯がこんなやつだったとき、最初に入っている唯一のゲームがテトリスだった。父はいつも、眉をしかめた「結婚は認めん」顔でひたすらテトリスに興じていた。

 

夜ご飯を食べ終わったらテトリス。コーヒーを飲んでテトリス。風呂から上がってテトリス

 

テトリス特有のあの音楽が休みなく流れた。

 

ある日わたしも暇で、父がテトリスをやっているのを横から覗き込んでいた。母もやってきて反対側から覗き込んでいた。この世でいちばん暇な家族である。

 

父は本当に熟練の動きでテトリスを捌いていた。甲子園いけるくらいの練習量なのだからあたりまえである。ボタンはテトリスによって摩耗されつつあって、決定キーは押すたびにキュッキュッと軋む音がした。だんだんテトリスのテーマ、コロベイニキが速くなっていく。父の指もいよいよ俊敏の高みに登っていく。生唾を飲んで見守るのは、テトリスに興じる男によって生活を守られている主婦とその子供。リビングは緊迫していた。

 

そのとき、それは起こった。

 

ビーン!という音がしたかと思うと決定キーがビヨーンと飛びだしバネがむき出しになった。あまりにテトリスに酷使され、ボタンが限界だったのだ。

 

それまで父の動きに従っていたブロックが制御不能になり、めちゃくちゃに落ち始めた。ストーンストーンとひたすら落ち始めた。

 

父が「ええいクソ!!!!!」と叫んで携帯を投げた。打ちつけられた携帯からはまだテトリスの音楽が流れていた。

 

この一連のことが数秒間で起こった。

 

わたしと母は、テトリスに狂い携帯をぶっ壊した男を唖然として眺めた。

 

それ以来、父がテトリスをやるのを見たことがない。今はスマホ大谷翔平選手について調べるのが生きがいのようである。

 

時代は変わった。

テトリス狂いはわたしに世代交代してしまぅた。