ニートにハーブティーは要らない

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お盆のバーベキュー大会に気合いを入れるガン患者

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うちの親戚は、お盆に盛大なバーベキュー大会を開催する。この不謹慎スレスレのイベントの中心になっているのが、マサおじさん(70)である。

 

マサおじさん(70)と書くと、田舎に帰省するたびになんだかちっちゃくなっていく、人の良いじいさんという感じがするだろう。

 

しかし実際のマサおじさんは斜め上を行く

体重が120キロある。上背もあるが、相当なボリュームで、アメリカのウォルマートにいる人みたいな太り方をしている。そして、よその子供に「あ、太った人がいる~」と指さされるとマジで睨むというファンキーな高齢者である。

 

しかし、マサおじさんは自分の顔見知りにはたいそう面倒見がよく、慕われている。中学生の頃の恩師を進んで介護するほどである。おもてなしの心が尋常ではないのだ。リアルクッキングパパでもあり、揚げ物も煮物もなんでも作る。以前にマサおじさん宅に泊まったとき、朝からとんでもない量のアメリカンなごちそうを用意され、交換留学にでも来た気分になった。

 

盆のバーベキューはマサおじさんが、一年で最も気合いを入れるおもてなしイベントである。親戚が集まって、先祖のために線香をあげ、そのあとは肉を囲んで歓談する。おじさんはいつもそのにぎわいの中心で、巨体を揺らしながらおもてなしのために奔走している。そしてバカでかいカメラでシャッターを切りまくり、それをすべて現像して後日に配って回るというマメさもある。このおじさんのエネルギーはどこで醸成されているのか。本当に凄い人だなあと思う。

 

さっきそのバーベキュー大会から帰ってきた。例年通り気合いが入っていた。

 

わたしは帰省前から、母伝いに「お前に最高の厚切り牛タンを食わせる」という熱い宣告を繰り返しいただき、本日めでたくその厚切り牛タンを食べてきた。マサおじさんがネットで大量に注文したその厚切り牛タンは、明らかに良い部位だった。舌の根の方の脂ののったところだった。「これ良いとこでしょ、利久より旨いわ!!」と興奮気味に言うと、マサおじさんは会心の笑みをこぼした。この人はこういうことが生きがいなのだと、マサおじさんの娘たちが言った。

 

クーラーボックスには大量の冷えたビール、ウーロン茶、ジュースが用意されていた。カルビやら、焼き鳥やら、エビやホタテ、とうもろこし、川魚まで半端でない量の具材がこしらえられていた。それをあーだこーだ言いながらみんなで焼き、ビールをぐびぐび飲み、宴は盛り上がった。マサおじさんはその中心で満足そうに笑っていたが、体の大きさのわりにあまり食べなかった。

 

おじさんは今ガンなのである。これは数年前からで、全身にぽつぽつとガンが出来るのを、その都度治している。マサおじさんの体力は驚異的で、幾度の厳しい治療をクリアしてきたから、今もこうして元気でいる。しかし最近になって、リンパが腫れてきたとかで、体調が悪い日が多いようだ。今日も少し顔色が悪かった。それでも今までと変わりなく周りの世話を焼き、大量の料理を作り、おもてなしをしている。そしてなぜか相変わらず太っている。それがマサおじさんの生き方なようだ。

 

「もうすぐ死ぬ!!!(絶叫)」とか「まだ生きておりますがどうもどうも」という言葉が、ジョークになってしまうマサおじさん。みんな本当はそれがジョークでもなんでもない事を知っている。おじさんは多分もう本当に長くない。でもうちの親戚はみんなでそれを笑う。それでいいのだと思う。

 

今日マサおじさんが気合いを入れてごちそうしてくれた、厚切り牛タンの味を忘れないようにしようと思う。