ニートにハーブティーは要らない

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よく深夜に更新します

覚醒・暴れメガネ★★★★★

 

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 朝、ゴミ出しをしたついでに近所を散歩していた。前住んでいたところと違い、ほどよく人がいてにぎわっており歩きがいがある。そのときのわたしは、筒みたいなまっすぐなワンピースにサンダル、家用にしているウディ・アレンみたいな変なメガネをかけた近所仕様だった。たまにそんな恰好でスーパーに行くと、不動産のひとが勧誘してきたりする。わたしとしては「よくこんな金のなさそうな人に声かけるな…」と思っている。

 

 そんなくたびれたマダムスタイルでなだらかな坂道をゆっくり下っていると、向こうから小さい男の子が母親に手をひかれて歩いてくる。嬉しそうに母親の方を見上げ、あれがあるよこれがあるよと報告しているようだ。電柱やコンビニを指さしては、何事かを元気にしゃべっている。母親もやわらかい笑顔で見おろしている。幸せそうな、ほほえましい親子だ。

 

 親子とわたしがすれ違う直前、男の子がニコッと笑ってこちらを見た。わたしも思わず癒され、あら何かしらと微笑んでそちらを見た。

 そして男の子が言った。

 

「暴れメガネ」

 

 え、何ですか?パードゥン??パードゥンパードゥンパードゥン???

 

 それも母親への報告だったようだ。おそらく視界に入れたものを全部言葉にして報告しているのだ。だとすればこのわたしは「暴れメガネ」で間違いない。一瞬でもほほえましい親子だと思って和んだのが間違いだった。

 

 たしかにメガネはかけている。悪いか。近所に出るときくらいコンタクトじゃなくてもいいだろう。しかし「暴れ」とは何だ。すれ違うその刹那に、どんだけ人の内面に踏み込んでくるんだ。何、本人も自覚していない潜在的な特性に言及してくれてるんだ。わたしのどこが暴れてるんだ。わたしの何がわかる。いや、この日を待っていた気がする。ずっと自分の置かれた居場所に違和感を感じてきた。メガネをかけると、その重みとともに自分のなかの抑えきれない凶暴な衝動が湧きあがるのをどこかで感じていた。いま、その力を開放するときなのかもしれない。

謎の透視能力をもった少年に、すれ違いざまに名づけられたわたしはそのとき「暴れメガネ」として覚醒した。このメガネの中に、もうあなたは映らない。もう誰も、わたしを止められない・・・。

 

  こんな妄想をしながら家まで歩いた。

 

 鏡に映ったわたしはやつれメガネで、まったく迫力がなかった。そして男の子は「暴れメガネ」ではなく「アラレメガネ」と言ったのだと気が付いた。